第01話    「庄内浜のコアミ」   平成18年04月23日  
毎年3月入ると、「コアミいらねがぁ!」「あんちゃ!コアミいらねがや!」等と威勢の良い掛け声で浜のアバ達(魚を売り歩く行商の女性達の事)が、取れたての生きているピチピチのコアミを売り歩くのが庄内浜の風物詩のひとつであった。最近そんな浜のアバたちもその多くが年老いて行商をするものが少なくなった。残念ながらあまり見かける事が無くなって来た浜のアバであるが、そのアバたちの威勢の良い掛け声を聞くたびに、「春が来たんだなぁ!」と云う実感を覚えたものである。

春になると秋田県境の象潟町(現仁賀保市)付近から南の日本海の庄内浜一帯で、毎年コアミが大量に獲れている。太平洋側でも同じような小アミが獲れているとは聞いていたが、それが同じ種類の物なのかどうかはまったく分からないままであった。今回色々と調べて見るとその漁はイサダ漁と云うのだそうだ。主に宮城県から岩手県三陸にかけてが、主な漁場であるらしい。実際には北は北海道、宮城県以南で獲れている様だが、面白いのは昔陸封された霞ヶ浦などの汽水域でも獲れていると云う情報もある。ただし、太平洋側のコアミの色合いが、多少ピンクがかっている部分があると云うのが特徴であるようだ。もっと調べてみると、食料としても使われてはいるが、大半は養殖の魚の餌さや釣の撒き餌等に使用されていると云う。それにそのコアミが死ぬと赤く変色すると云うのもひとつの特徴らしい。学名はツノナシオキアミと云い、アミ目アミ科に属するとの事である。

一方庄内浜で獲れるコアミは、コブヒゲハマアミと云い同じくアミ目アミ科のプランクトンである。こちらの方は活きていれば透明で透き通っている。死んだ時に赤くならずに灰色となるのもひとつの特徴である。これを庄内では活きているもの、死んで間もない物は生醤油に少量の生姜を入れて刺身として食うし、完全に死んでしまったものはフライパンで炒ってから、醤油、砂糖で煮付けてご飯にかけて食べる。脂がきついので人により、多少好き嫌いがある。また、塩辛や塩漬けにして長期に保存する場合もある。

このコブヒゲハマアミに姿かたちがまったく、似ているのが釣の撒き餌に使うイサダ(コクボフクロアミ⇒アミ目アミ科、宮城のエサダ)である。一年中砂浜の渚に住み、目の細かい網を使い捕まえて、魚の餌さと撒き餌にする。夜になると結構大型の魚たちも、イサダを浅い渚に来て食べているので、投網を使い砂浜を歩く人達を見かける事がある。