第16話    庄内竿の竿かざし」   平成18年08月07日  

 比較的深い釣り場での庄内竿の扱い(竿かざし)は、多少バカが長くとも、容易に魚を取り込む事が可能である。ところが、底が浅く沢山の根が見え隠れするような浅い磯場での魚の取り込みは、大変苦労するのはバカが長いので当たり前の事である。魚は当然のように何とか逃げようとして根や岩の隙間を目掛けて右や左に突進する。その為にバカが途轍もなく長い庄内竿の延べ竿の釣で魚を上げる事が出来れば、一人前の釣師であるとされていた。

 バカの途轍もなく長い庄内竿のバカとは、竿よりもバカが二ヒロ、三ヒロ長く取るのは、当たり前で時には竿と同じ長さの事も多々あったと云われている。まだリールがなかった頃の釣である。少しでも沖に餌を届けようとすれば、当然バカを長くしなければならない。それよりもそんなに長いバカを自分が思うポイントに正確に入れると云う竿の振り込みと云う技術を自分の物にしなければ釣にならなかったと云う事である。完全フカセの釣では、当然餌以外の錘は何も付けてはいない。にもかかわらず、竿のしなりのみで、確実にポイントまで餌を届けたと云われている。風のない時はまだ良い。少しでも風が吹いていたらと考えると、それは正に神業としか云いようがない。最近のベテランと称する釣り人の技の力でも、せいぜい二ヒロ、三ヒロが限度である。何故なら、餌が昔の活餌ではなしに柔らかいオキアミが主体の釣りとなって来たからからでもある。その頃の餌は虫餌も使ってはいるものの、通常は川エビを使っている。喩えマエ(岩虫)の様な硬い餌を使っても、竿の倍のバカをポイントに正確に振り込むなんてェ事は、現在の釣師では到底出来ない技のひとつであろうと思われる。

 現在の釣で餌(疑似餌)を正確にポイントに振り込むと云う似た釣りはフライである。それはラインを重くしてあり、振り込時に何度も空中にてラインのあおりを繰り返しながら徐々にライン延ばして行き、より遠くのポイントに正確に飛ばすと云う物である。しかしながら庄内の釣では、そんなライン(道糸)にあおりを何度もくり返したと云う、話はまったく伝わっていない。大いに異なる点は、ただ一度の振込みで正確にポイントに届けると云う事である。以前何かの本で読んだ事があるが、明治初期を代表する菅実英等は家にあっては、常に畳の縁を目掛け竿を振り込むと云うイメージトレーニングを行い、更にトイレに入っても一心不乱にイメージトレーニングを励むがあまり家の者が呼びに来て始めて我に帰った等と云う逸話が残っている。その位一心不乱に練習を積まなければ、その技は自分の物にはならぬもの、名人にはなれぬものと書いてあったと記憶している。

 黒鯛竿の3間半と云えば、21尺で約6.3mである。竿の長さを入れると、竿の長さの3倍で18.9mの遠くに飛ばす事が出来る。釣り場によっては、最大バカが竿の倍と云う長さを、二昔前までの釣師たちは、そんな長いバカを使って自在に操って魚釣りを行なっていたのである。こんなバカの長さの釣では、当然浅場の魚の玉入れは困難を極めた事は、容易に考えられる。しかし、庄内釣りでは自分で釣った魚の網掛けも一人前の証となっていた。