第25話    庄内撒餌考」   平成18年10月09日  

 庄内に限らずベテラン釣師の多くは、必ず持ち帰った魚の腹を開いて見ると云う。黒鯛のお腹の中を見ればその日の食い物がすべて分かるし、その時期の好みの餌そして撒き餌が効いて釣れたのかどうかも判断出来るからである。

 
一般に云って大量の撒き餌をドカドカと撒いて置けば、必ず其処に魚が集まり釣れて来ると信じられている節がある。多くの釣り人が一斉に撒き餌をドサドサと大量に撒けば、公害の恐れさえも出てくる事は必死だ。撒餌とは魚の居る場所、寄って来そうな場所を察知して、釣りたいと思う魚寄せるのが目的である。季節、天候、潮の流れを良く見極めて適切に撒き餌をするようにすれば確実に撒き餌の効用が、100%認められるものだ。だが、この事は初心者にとって簡単な様で、実は中々出来ないことでもある。

 
自然界に住む魚たちは、食える時に腹一杯に喰うと云う習性がある。お腹が満杯になるとせっかく食べた撒き餌を吐き出してまでも、上から落ちて来る別の餌を食べると云う事が実験や観察などで知られている。そこで魚が居そうな場所、必ず居る場所に効率良く撒き餌を効かす事が第一番の条件となる。これは場数を踏まないと中々出来ない事でもある。二番目に潮の状況である。払い出しがどの程度まで遠くまで撒き餌を流し、拡散させればポイントが何処に出来るかを把握しなくてはならない。往々にして初心者の方は、隣の釣り人の為に撒き餌を打っている人が見受けられる。

 
第一の条件についてであるが、同じ釣り場に何回でも出掛けてその場所の季節による魚の移動の状況や魚の格好の住処となる捨石や沈み根などを良く把握して置くこと。また、その近辺に住む黒鯛の食餌行動を把握出来ると云うか、朝夕の食餌行動の通り道になっているかどうかも調べられれば云う事はない。例えば夕方水の澄んでいる時に見かけられる行動だが、魚が住処から出て毎日の様に同じ食餌行動を取る時に必ず通り道がある。そんな事を一日に何回か繰り返しているように思える。水が濁っていてその通り道に撒き餌を打っておけば、同じ時刻に同じポイントで何枚か続けて釣れると云うことを何度も経験している。そしてそのような場所を何ヶ所か知っている。しかし、残念ながら最近は海水の汚れからか底が見える時が少なくなっているので、新規にそんな場所を発見する機会も少なくなって来た。それでも夕方の通り道と思える場所には、幾匹かの集団が確実に餌を求めて来ているようだ。

 二番目に潮の状況であるが、磯やテトラポットでの払い出しを探す事が、その日魚を釣る為の最低条件となる。その払い出しの強さで何処がポイントとなるかが決まる。現場について見ると分かるのだが、せっかく見つけた払い出しの潮がいつでも同じ方向に流れている訳でもない。常に注意しておく必要がある。又上潮と下潮が逆に流れている場合もあり、これもまた注意が必要である。沖に流れるように打った撒き餌が、実は足元に戻っていたと云うことがある。通称二枚潮と呼ばれるものがこれである。また、ポイントを挟み左右に流れる潮がある。庄内では沖は別にして岸の方では、強い潮の流れ殆んどない。絶えず間をおいて緩やかに左右に流れていることが多い。一日の干満の差が3040cmと少ないと云うことが、影響しているからである。

 一番理想的なのは岸からか一直線に沖へと延びる払い出しを見つけ、その強さを見極められれば撒き餌の比重で釣れるポイントを決定する事が出来る。其処へ少量の撒き餌を絶やさずに何回にも分けて2030分は撒き続ける。その間仕掛けのセットをする。鶴岡の老練な人達は撒き餌をしながら、潮の流れや強さを判断しその日持参した竿の中から一番最適と考えられる竿を使用する。少なくともポイントに適当に撒き餌を撒き、直ぐには釣るようなバカな事は絶対にしない。少なくとも基本的に撒餌と云うものは、魚を寄せる為の物である。しかし、適当に撒餌をコマセれば魚が寄って来ると云うものではない。寄せ餌は多くとも、少なくともいけない。最小限の撒餌で、如何に魚を寄せるかと云う研究が必要である。