第26話    「池田釣具店のオリジナルの竿   平成18年10月16日  

 10年ほど前、現在の庄内町(旧余目町)5、6年ほど勤務していた事がある。その時池田釣具店を度々訪れていた事がある。昨年その店のオリジナル竿を見たくておぼろげな記憶を頼りに探して行って見たが、いくら探しても分からない。ところが今年の夏、その店で作られた特徴のある竿で釣っている人を見かけ、場所を聞き出す事が出来た。その場所は自分が思っていた所より、ずっと駅に近い横丁の細い路地にあった。線路に近い場所と云ううろ覚えの記憶があって、昨年店を探した時に何度か通ったような気がするのだが、オフシーズンの為たまたま閉まっていたのかも知れない。

 少しお年を召したその店の主は、矍鑠としてすこぶる元気なご主人である。ご趣味が鉄砲打ちだそうで足腰も御丈夫のようだ。「布袋竹の根に近いあのゴツゴツとした部分の見事さに惚れて釣竿の改造に着手した」との話である。「始め庄内竿の小竿の手元の握りの部分に付けたかった」とも話す。このご主人釣竿に中々の拘りがあって、現在チョイ投げ竿を作る特注でグラスのソリッドを取り寄せ、これまた特注の細い穂先を付ける工夫をし、小さなものから大きなものまで釣れるオリジナル竿の完成に励んでいる。穂先に細く柔らかいグラスのソリッドを使っているので大きな魚は勿論小さな魚の当たりまで敏感に取れるように工夫されている。ここで作られたオリジナルの竿は穂先の部分(二本継のトップ)に少し細めで丈夫なソリッドを使用し、全体に漆をかけて竿尻に布袋竹のゴツゴツした根元の方を付けてあるのが大きな特徴である。その竿を使っている者は、大抵余目近辺の釣り人と一目で分かる竿でもある。勿論客に要求されれば改造も引き受けたりもする。

 余目近辺の既成の竿に飽き足らない釣人達の多くに、この店で作られた竿は絶大な信頼がある。当然手作りであるから、一本一本に個性があるのがこれまた特徴となっている。自分で試作した竿を自分で使って見ているから、改良に改良を重ねてあり現在もそれが進行中である。こんなオリジナル竿は、決して他では見る事が出来ないものだ。ここで売られている竿はこの店独自のオリジナルであるから、メンテナンスもがっちりで釣り人が安心して買える店であるのも心強い限りである。

 竿だけでなく、手作りの杓も作り格安で売られている柄の部分は黒竹、ヤダケ等の細身の竹を使い、握りは布袋竹を使ったこれまたオリジナルの製品である。自分も杓を作っているので、大変参考にもなる。逆に自分の製品を見て貰い参考になればと根曲り竹、篠竹にニガタケと完成品の杓2本ほど置いて来た。自分の製品を見て「矢張り杓の柄はニガタケが丈夫で良い」と云うお褒めの言葉を戴いた。お互い我流で作っているので色々と刺激にもなる事が多い。「自分は師匠がないから一生勉強と思っている。師匠から伝授された技でもないので格安で販売出来るのだ!」と云うご主人のオリジナルの竿作りは、その熱意の程が身近に感じられ、その謙虚な研究熱心には心打たれる思いがした。

自慢のラッキョ竹の握りの竿
 偶々友達から、ラッキョ竹の根を貰い、くびれの部分に穴を開けて道糸を通しガイドを下向きに付けたと云う会心の作。