第27話    「アイゴが釣れた   平成18年10月23日  
 先日昭和45年頃の本を見ていたら、鶴岡の加茂磯でアイゴが釣れているとあった。ただその頃は毎年釣れていたのではなかった。何年か置きに、たまたま強くなった日本海沿岸を北上する対馬海流に乗って、毒針を持つアイゴが集団で流れてついたのである。当時の釣り人は見た事もない魚だったので、毒を持つ背ビレと腹ビレの鋭い刺に刺され、痛みがとれずに苦しめられた釣り人達が少なからずいたと云う話が残っている。

 その当時一部の釣り人達の間では、アイゴはオコゼの刺と同じであると云い、その毒針に注意しなければならない魚のひとつとなっていた。その魚が何時しか毎年来るようになってもう十数年にもなる。平成15年9月の大型台風が日本海に沿って北上した。その時鶴岡の加茂磯辺りにいたアイゴは酒田沖を通り、秋田県象潟、平沢辺りの磯場や防波堤に大量に運ばれた。その時のアイゴの一部は、遠く男鹿半島にまで達したとの事である。

 秋田県北部にまで、海流に乗って北上したアイゴのその行方は分からないが、その翌年の酒田北港の温排水付近にはアイゴか居ついているかように見えた。それは平成15年に見た魚より大きなものが、数多く見られたからである。しかし、その次の年平成17年には全く見られなかった。やはり冬の低温にはついていけなかったのであろう。

 対馬海流が、あまり見た事もない魚たちを運んだ例は沢山ある。昭和26年頃以前酒田港では見られなかった石鯛の幼魚が、その後毎年酒田の本港内で大量に釣れる様になっていた。その翌年から同じくイワシが本港内に入って来るようになっている。時を同じくしてアジも大量に入ってくるようになった。昭和30年頃からはダツが港内に入って来るようになった。昭和47年頃になると今度はヒイラギが大量に釣れ始める。平成14年頃には以前見られなかった鰆(さわら)が毎年北港に入って来る。以前釣れてなかった魚や見た事もない魚たちが釣れてくる原因は、対馬海流が大きく関係している。ただし、地元の海がそれなりに温かくなければ居付く事は出来ない。

 北の冷たい海に居付いたり、毎年の様に回遊して来る様になったと云う事は、どのように解釈したら良いのであろうか?魚が冷たい海に順応して来た為だけとは考え難い。地球温暖化の影響が色濃く反映しているのだと考えた方が理屈にあっていると思える節がある。北港に離岸提があるが、そこへ渡る時に利用していたコンクリートの段差がある。そのコンクリートの段差は作られた当時は、余程の満潮時でも隠れることはなかった。今ではいつでも年中水面に隠れるようになっている。港内を見回すと以前は水面に隠れていなかった場所が、最近ではいつも水面下にあると云う場所がいくつも見られる。単にコンクリートの重みで沈下したとも考え難いのである。山形県最上町に住む冒険家大場満郎氏がカナダ北極圏縦断の旅を行っている。同地を二十数年前の歩いていた時に比べ気温が格段に暖かくなっているそうだ。以前は毎日のようにブリザードに見舞われ気温は△40度の毎日であったと云う。しかし、平成17年の旅では△28〜△35度でブリザードは週にたった二日間である。北極圏は確実に暖かくなっているとの感想を述べていた。今まで北極の寒さが、海流をうまく循環させてきた。それが暖かくなって異常気象を引き起こしている。人間が大量のエネルギーを消費した結果が、地球環境を破壊した為に起こって暖かくしてしまった結果なのだと考えた方が、良く理解出来るのではないだろうか。

 出来るだけゴミを出さないこと、みだりにゴミを作らない事と云った小さな事でも良い。出来ることから一人一人が実行すれば地球の環境は変えられるのではないだろうか?昨年「もったいない」と云う言葉が新聞等のメデアで大々的に報じられた。信じられない事にその外国にはその様な「もったいない」と云う言葉がないのだと云う。国連でその「もったいない」という言葉を標語に採用したいとの事であった。「もったいない」と云うと、なにやら貧乏くさい言葉であるが、使えるものは出来るだけ長く有効に使い、資源を減らさず地球を汚さないとの考えた方が、これからの社会にとって良いのではないだろうか。

 ここ2~3年見かけなかったアイゴを今年北港水路釣っているのを見かけた。例年より今年の6、7月は寒かったのだが、8月の猛暑で北上して来たのかも知れぬ。