第31話    「庄内沿岸釣場絵図 余白録T   平成18年11月20日  

その1.危険を冒さざる事
 波濤の情勢を審にすること。当面の波浪の変化を見る。
その2.岩渡りを注意する事。
 夜釣り特に不案内の釣り場に向かった時
その3.夏季の燕波(イキリナミ・・・当地で陸に向かって吹くもの)、秋土用後(10月)のイキリ波(沖を吹く風による。晴雨計にも影響せるもの)は特に注意を要す。渡岩すべからず。
その4.腰にハケゴ(籐や竹ヒゴで編んだ魚籠)を付けぬ事
 可成身軽にして、活動に便する事。
 履物、時計、燈明、岩またぎ、苔のかかりたる岩、橋。

 釣に伴う危険は今も昔もすこしも変ってはいない。その意味でもっともな事が書いてある。磯釣りでもっとも注意を要するのは、何と云っても波である。昔より上磯では南西の風が、大波を誘うと云われている。少し違うが当地酒田では北西の風はある程度晩秋であっても、安定して吹く事が多い。が、急に南西風に変わる事がある。そんな時は南突堤の曲がり付近で、急に波を被ると云う荒れに変わる。其れを知らずして、救助船が出た事が何回かある。その間の時間わずか30分ほどでしかない。南西風が最上川の河口の水に当たって、釣り人が思った以上に波立つのであろうと考えられる。

 磯釣りは防波堤と違い、海に向かって岩が斜めに入り込んでいる場所が多い。何回、何十回に一回の大波が、海底から這い上がって来る事がある。名釣り場として知られている油戸荒崎などは、晩秋の荒波が這い上がって来て過去に幾人もの釣り人が命を失った事か。そんな岩が各所に点在している。昔の釣り人は延竿の釣であったので、ある程度危険を承知で竿が短い分釣岩の先へと出て行く傾向があった。そんな訳で大波時の黒鯛の狙う場所は、結構高い場所である事が多い。庄内釣りでは大物を狙う竿は、三間五尺から四間竿と決まっている。昨今はリール付きの釣竿で釣る関係もあり、先に出る必要も無いので、釣で命を失うと云う事は余り聞かれなくなった。それでも防波堤のテトラポッドから落ちて怪我をしたと云う話はチョコチョコ耳にする。晩秋の大物釣りでは岩苔が付き一度落ちたら這い上がる事など不可能に近い。必ず救命具の着用が必要だが、締め付け具が邪魔なのかちゃんと付けていない人が目立つのは残念な事である。

 人の多い日中の釣りはともかくとして特に夜釣りや晩秋の釣りなどでは単独の釣りは止め、必ず複数人での釣を行って貰いたいものだ。命あっての釣であるから、たった一つのその命がなければ、釣を楽しむことは出来ないのだ。万一落ちた時の為に足元の確認や現在大きな波飛沫がなくとも、足元が濡れていないかを必ず確認してから釣を行うと云う習慣を身につけていた。江戸時代から明治あたりの釣人は褌等で昭和初期の人は紡績糸の太いものを必ず必携していて、万一釣人が落ちた時はそれで人を助けたとも云われている。