第38話    最近のクロダイ釣師」   平成19年01月08日  

 黒鯛が年毎に少なくなっている。それはおそらく釣り人の増加と場荒れがひとつの原因であると思っている。何年か前まで良く釣れていた場所が、最近まったく釣れなくなったと云う事が良くある。それは魚の住める環境を人間が、破壊しているからだと思う。水が澄んだ時、海底に見えるのはジュースの空き缶、ビニールの袋など心無い釣り人の置き土産が多く見える場所も見受けられる。

 釣れないからと云って釣り人は新しい釣場を開拓する。竿が曲がっているのを見て「其処が釣れるんだな」と釣れてない釣り人達は釣れているのを見てどっとなだれ込む。新しい釣場を開拓すると、当然のように其処へ心無い釣り人も来るから、しばらくするとその釣り場も汚れて行く。残念ながら、日本全国の著名な釣場は、この繰り返しである。それに釣れないから、魚の居そうな危険な場所での釣りも、数多く行われて来ている。外洋に面した大型テトラポットの上から落ちて朝までしがみついていたとか、不幸にして大型のテトラから落ちて打ち所が悪く亡くなられたと云う話が毎年のように聞こえてくる。

 磯や防波堤で急な高波に襲われて流された人の話も良く聞く。30分に一回、1時間に一回、2時間に一回の高波に襲われる事がある。昔から磯(防波堤)の濡れている場所での釣りは法度と決まっているのだが、俄か釣師の多くはそれを知らぬ者が多い。平気で「後ろから急に波を被って、道具を流されちゃてヨォ〜! イヤッー、マイチャッタヨ!!」等と仲間と面白げにしているのを聞く事がある。彼らは「今回は命拾いをした、今度から気を付けよう」等とは決して思っていない。波に襲われるべくして襲われたとは思わず、たまたま波を被ったに違いないと思っているだけなのだ。そんな彼らは魚を釣るためなら又同じ事をやる気がする。昔の釣師達はそうならないように師匠や先輩達に様々な注意を受けていたから、そんな危険な事にたまたま遭遇してしまったら、非常に恥ずべき事として決して誰にも云うことはなかった。最近の釣り人は釣る為には、人より少しでも前へと出ようとする気持ちが大きくそれが命取りとなるかも知れないと云う危険性を把握してはいないらしい。一昨年の台風6号の時に時化の大荒れの防波堤で3人の若者が戯れていた。案の定しばらくして高波に襲われ港の中に投げ出され、あたら若い命を失ってしまった。たまたまそれをビデオに撮っていた人が居て全国に報道された。自然の力の前には人間など如何に無力のものであるかと云う事を思い知らされたニュースのひとつであった。何も危険は台風だからと云う事だけではない。局所に急な低気圧の発生、遠い海からのうねりが海面下に隠れて来て、手前の浅瀬にブッツカリ急に大波に変化する事だって十分にあり得るのである。

 かつての庄内でも磯釣りで庄内竿の長竿の値段が高価な為、二間一尺から三間位の比較的短い竿での釣行が多かった時がある。庄内の黒鯛釣りは秋磯が本番であるから、ある程度海が荒れて、潮の良い事が最高の条件となる。その為、濡れて危険と分かっていても、少しでも前へ前へと出て釣りが行われたような気がする。その頃の磯での遭難は毎年決まって23人は出ていた。場所と条件をわきまえぬ釣人は、いつの時代にも居るようだ。

 いくら釣れないからと云って、荒れた日に濡れている磯に前へ前へと出て行き、命と魚をやり取りする馬鹿な釣り人は、釣師とは呼ぶ事が出来ない。そんな馬鹿な釣り人に限って、釣り場を荒らして帰る輩(ヤカラ)が多い様な気がする。