第40話    竹の芽取り、袴取り」   平成19年01月22日  

 掘り出した竹やウラ用の竹は自宅に持ち帰り、剪定鋏などで枝を払ってから、水洗いで根の泥を落とす。その後、一ヶ月ほど天日で乾燥し、雨の当たらぬ軒下などに保管する。本来ならば一ヶ月の天日乾し、その後最低2~3ケ月雨の当たらぬ軒下等で完全乾燥する。その後芽取りと袴取りを行うのであるが、素人の私はまだ水分が残っている内に、芽取り、袴取りを取り易いので出来るだけ早くその作業を行う事にしている。また根の部分の曲がりが極端な場合など、これも完全乾燥前に行う様にしている。根の部分は完全に乾燥してしまうと、とても硬く完全乾燥してからだと、真直ぐに矯正するのが大変でセミプロの方でも時々焼け焦げを作る事があるからである。庄内では焦げを作ると竿の見た目が良くないし、第一竹が死んでしまうので嫌う。第一竿としての寿命が短くなる。

 竹のはかまは、若い内は各節毎に芽を覆うようにして着いているが、年を経る毎に自然と剥げ落ちてくる。しかし、すべて落ちては居ないことから、それを小刀などを用いて綺麗にする必要がある。庄内竿を作る職人の間では通称一刀取りと云う技法があるが、これは竹のはかまの下ギリギリの場所に適度に小刀の刃を当ててくるりと廻し切りにする事である。力の入れ具合が余り軽くても切れないし、又強過ぎると傷がつく。竹に一点の傷を付ける事無く、回し切りする事は、素人では中々難しい技のひとつなのである。後で竿にした時、結構目立つ場所でもあるので細心の注意を必要とする作業のひとつである。

 次に剪定した横枝の後処理通称芽取りと呼ばれる作業を行う。この芽取りは鶴岡、大山、酒田の職人の間でも多少異なる。また、職人毎にその処理後の出来具合が異なることから、以下に綺麗に処理するかは職人の腕の見せ所のひとつとなっている。実用的な芽取りから、芸術的な芽取りの形など多様で様々な形がある。例えば鶴岡の竿に多く見られのは、芽の部分をえぐり取った形で、凸凹を木賊掛けにして刃の後を平らにする。一方酒田の竿に見られるものは、横から見て多少ふっくらと盛り上がり上から見ると亀の形にさせているものがある。単に実用品の竿の芽取りとは云え、如何に綺麗に見せるかと云う、職人の技でもある。

 竿にしても竹肌の汚れた脂をとって綺麗にする為の工夫も、色々とある。籾殻で磨く者もいれば木賊がけする者、又細かい砂を使って磨く者もいる。それらは竹肌に、見えない傷を付けるからと云って、強い火で炙った時に布切れで、丹念に拭き取る人も居る。最近では、竹を採ってきた時にたわしで擦り取る人も居れば、クレンザーでとる人と様々である。ただ、虫眼鏡で拡大して見ると、竹肌に傷があるのが良く分かる。結論から云えば、火で炙り傷を付けぬようにして、竹肌から汚れを取れればそれに越したことは無いと云う事になる。ただ、素人の竿作りでは、どれを使っても余り気にすることはない。

 自分の芽取りは、其の時々の気分で行っており大して拘りを持ってはいない。ただ後から、竿を見た時に綺麗に見せたいと思っているだけである。その為にどちらかと云うと、上から見た時に亀の形で、横から見て多少の膨らみが欲しいとは思っている。何十年ぶりかの、竿作りなので手が云う事をきいてくれない。残念ながら竿に結構傷が多い。自家用の遊び竿であるから、致し方はないと諦めてはいる。この二年間はウラ(穂先用の竹)を沢山削って、左手の下の部分が腱鞘炎に成りかかる程に練習をしての悪戦苦闘の冬である。今年は合計で竿を10本とウラを40本ほど採って来たが、乾燥して見てのお楽しみである。ウラは竿に合わせるのが大変なので出来るだけ多いに越したことはない