第41話    「庄内竿のウラ(穂先)継ぎ」   平成19年01月29日  

 ここ数年毎年十一月の中旬の頃になると、決まって北庄内のニガタケの竹薮を探しては入る。竿にする為の良い竹を取るのが、最大の目的なのだが、そんな竹はどの竹薮にもある訳でもない。細くて長く三年古以上の竹で、傷もなく、曲がり節でもなく、平節(ヘラブシ)でなく、しかも出来るだけ素性の良い竹を探す。そんな三拍子も四拍子も揃った竹など宝くじの一等前後賞合わせて三億円を当てるようなもので、中々お目にはかかる事はない。だから何時もせめて百万円くらいの竹をと、心に念じながら竹薮に入って行く。

 竿に使う竹は採取しても良いと云う季節がある。それはある程度寒くなって地下茎から、水を吸い上げが停止した時が、一番良いとされている。ところが幕末の庄内藩の軍師を勤めた秋保親友の「野合日記」などを見ると、竹取りの記事がこと細かく書いてあるを見ると彼の時代には暑い真夏を除いて、庄内中の竹薮を名竿を求めて竹取りに精を出していた事が分かる。初冬に竹を採るようになったのは、どうも明治以降の事のように思われる。明治の名竿師上林義勝は、初冬の頃川北(酒田以北=飽海郡)に竹取に行ったことを何か釣りの本等で読んだ記憶がある。その河北で採った竹を荷車か何かで、酒田まで運び、その後当時最上川に繋がっていた赤川で船に乗せ鶴岡まで運んでいたと云う。

 竿にする良い竹がない時は、自分はよくウラになりそうな竹を何本でもあるだけとって帰るようにしている。竿のなる竹はその一本一本の節の長さや硬さそれに太さが異なる為、数多くのウラがなければ良い竿は作ることが出来ない。竿になる竹探しと同じように大切な作業なのである。良い竿師ほど、数多くのウラ竹を持っていると云われているのも自分で竿を作るようになってから納得出来た事のひとつである。その手持ちのウラ竹の中から、最も合うものを一本選び穂先として合わせる。一本の庄内竿を完成する為に、何故にウラに拘るかと云えば三年古以上の竹に殆んどウラ(穂先)冬を過せず枯れている事にある。

 今年は10本位の竿に出来そうな竹を採ることが出来た。その内ウラの無い竹が、8本ほどある。それに昨年採って来たウラを継いでいない未完成の竿が二本程ある。それに合わせる為のウラ竹が、一本でも多く欲しかったと云う理由があったのである。最近で、今回ほどウラに拘った事はない。そのひとつの理由が左手の付け根付近の腱鞘炎にある。いずれ痛くて竿を作ることが出来なくなる事になるだろう。ならば今年あたり一本でも多くの竹を採って来て、作って見ようではないかと云う気になったのだ。

 今年取って来た竹の中には、四年古の竹で竹肌が枯れかかり腐っているのではないかと思われるものが一本ある。取っている最中は、無我夢中で根を掘っているので気づかなかったが、素人の竿作りの自分にそうした事は日常茶飯事の出来事である。そう云えば館長も、先日掘って来た竹の中に藪ズレが一本、自分と中間が同じように枯れて腐りかけた竹が一本あった。最近長い三間半から四間の竿を作っている館長は体力的に後1~2年だと云っている。その館長も昨年腱鞘炎の為、自分と同じ辺りの手術を行った。館長よりずっと短い竹しか採って来ない、自分は後何年位作れるのだろうと思うことがある。

 竿にする為の竹を採ることと、ウラに使う竹を取る事は表裏一体でとても重要な作業のひとつである。昔から云い伝えられているように、自分で使う為の庄内竿は必ずしも一本の竹でなくとも良いと思っているのだが、それでも出来れば一本の竹である事に越した事はない。以前も竿が短いからと云って、元竿を切って手元に別の竹を継いで長くした事も何度かある。ただ竿の調子が狂わないように、継ぐには可也多くの経験が必要だと感じた。

 ウラを継ぐのも同じで、竿の調子が狂わないようにするにはやはり長年の経験と勘が重要である。素人の自分の竿作りは「まだまだ!」と何度挫折したか分からない。他の地方の竿作りの作業と大きく異なるのはこのウラ竹取の作業である。庄内特に酒田ではウラを継ぐのも原則的に穂先の最大で一尺(30cm)前後ぐらいがベストとされている。継竿として始めから作られたものでも穂先が一本すべて別の竿と云うものは、無いに等しい。それだけにウラの選定も難しい作業なのである。

 実際に自分がウラを継いで見て分かったことは、竹と竹を合わせる切り口の角度である。これを一定の角度でぴったりと合わせるようにしないといけない。何度も何度も削る内に節間が短くなってしまったと云う事も何度かある。如何せん自分が未熟であるからに他ならない。中芯は通常太い場所では竹を使うが、ウラの場合は細い為にそれが出来ない。そこで丈夫な竹ひごを入れる場合もあるが、庄内中通竿のような場合はそのままの状態で合わせて継いだ部分に真綿で包みその上から薄い漆を何度かに分けて塗ってやる。その作業を現在では釣具屋で売っている新ウルシやカシューで代用する人が多い。自分は皮膚が敏感で新ウルシ、カシューにも被れるので使用には慎重を期して行っているが、それでも毎年春先には決まって皮膚科にお世話になることになる。

 自分のウラ継は、中芯に太い針のような鉄芯を使い接着剤で塗り固め、その上に細いミシン糸を綺麗に巻く。そしてその上に茶系統に黒を混ぜた新ウルシ、カシューで塗り固めていく事にしている。