第43話    「名竿師 山内善作の著書 U」   平成19年02月12日  

 善作の竿に就いての好みが、書いている一文がある。晩年の善作は加茂湯野浜の磯で黄鯛や二歳を良く釣った。そこで黄鯛が釣れそうな時に用いる竿は、具(=道糸)は二歳を釣る時より太くするので、一丈(10=3m)から二間四、五尺(4.8〜5.1m)の多少太目の竿を使っていると書いている。二間半(4.5m)の竿は、何釣を行うにしても昔から今に至るまで万能の竿だとも云っている。それは今日の釣でも、少しも変わってはいない。

 善作好みの竿の調子は穂先から次第に根元の方へと竿全体に平均して力かを持つものが良いとしている。先だけが簡単に曲がり、物打ちに力の足りないものは合わせるには良いが、竿がやや立って来てから魚が外れやすい。物打ちが強過ぎる竿は、竿が立ってから魚は外れないものの、食い込みが浅く且つ合わせるまでの余裕が少ないと云う欠点があると書いている。また、竿の曲がりが根元に来る竿は伸され易いから、具が切れやすいと云う欠点があると自分の感想を述べている。

 元来善作は細目で且つ堅目の竿を好んで作っている。二歳を釣る時は二間半で元径が三分四、五厘(10mm)、調子は総調子が竿全体に魚の引きが平均して効くから良いと云う。そして二間半以下の竿を使う場合は、必ず片手で釣る事が良いと必要。その訳は、魚が釣れて魚をいなす時に、竿の重いものは先手を取る事が、困難であるから竿は出来るだけ軽目のものが良い。これは善作自身の最も好みの竿の調子である。だから誰もがこの調子で釣れるものではない。各自釣り良い竿で釣るのが一番であるとも云う。

 善作は竿の好みの例を挙げている二歳釣の名人がいた。その人物の名は大山の政木屋の主人である。二間(3.6m)の物打ちに力のある腰調子の極細目の竿を使い、魚が釣れると根元のしかも手の握りの中で曲がるような竿を使っている。そんな極端な釣り方でも、誰らも負けない釣果を誇っていた。極端な例であるが、本人の好みの竿の調子であるから誰もが真似してもそうそう簡単に釣れる物ではないと書いている。

 竿の違いで初心者の人、釣り慣れている人の適不適がある。又、竿に対する個人的に好き好みもある。竹竿は一本一本がすべて自然に生えている物であるから、全く同じものは一本も無い。そしてすべて一本一本に個性がある。その中から大まかに分類すれば先調子、胴調子、元調子の三つに分けられるが、その中から自分に合いそうな調子の竿を買う。そしてその竿を使い込んで、使い込んで次第に自分のものにして行くしかない。結論から云えば善作は「一番良いのは、自分の手馴れた竿で釣るのが一番」とも書いている。自分に合わない竿でも、一応ソコソコ使いこなせると云う人は、名人でもなければそんなに多くは存在しない。ことに一本一本に個性のある竹竿では更に難しいのである。竹竿に慣れ、竿の個性を知り、自分なりに使いこなす事が、竹竿を使って釣をする楽しみの一つでもある。ただ数を釣れば良いと云うものではない。難しいからこそ、一枚、一枚に価値がある。

 何故か竹竿を使って釣は、枯れた釣とでも云おうかカーボン竿の釣に飽き足らない釣人が多い。たかが魚が一匹でも、それが二匹、三匹にも相当する楽しみがあるからである。そんな味わい深い釣が、いつまでも魚を減らさずに楽しめる釣に繋がって来るのではないだろうか。