第57話    「釣餌も科学」   平成19年10月15日  

 1970年代後半に開発されたアミノ酸分析装置なるものが、釣餌に科学を持ち込んだ。今まで知らなかったが、正式には高速液体クロマトログラフィ(HHPLC)と云うのだそうだ。以前は経験と実践が物を云っていた物だが、最近は魚釣りも先端の食品科学に左右されるようになったとは驚きだ。味気ないことだが、正に実験室で魚を釣っているのと同じことだ。今後この業界は益々このような傾向が進んで行くだろう。

 かなり昔からヘラブナが、何故か味の素の旨み成分に反応する事は知られていた。自分が在京中の昭和30年代のヘラブナ釣の練り餌に味の素を混ぜて使う事が一部のマニアの間で流行していた。何で分からんが、それで釣れた。釣れるから、評判を呼びそれが瞬く間に広がって行ったのを覚えている。以前は練り餌にサナギ粉を混ぜるのが定番であったが、誰かが、何か別の物を入れたらどうだろうと試したのが始まりであったらしい。今でもサナギ粉はヘラ釣の定番商品であるが、サナギ粉はチヌにも使われている。関東ではチヌ釣と云えば落とし込みで、延べ竿やウキ釣のチヌ釣は反主流の釣り方であったように記憶しているが、虫餌の他乾燥サナギを水で戻した物、手に入る人は生サナギを使う人も少なからず居た。

 昭和43年になって故郷に帰り、46年の頃から本格的に海釣りに復帰した。50年代に入って生オキアミが庄内でも買える様になったが、まだ餌用としてのオキアミは無かった。その為遠出する時は付け餌兼用の10キロの一枚物を持参したが、通常は沢山持っている人から小分けして貰い使ったものだ。現在のようにコマセ用の粉物などない時代である、海に潜った人が見た有名釣磯の光景はオキアミの絨毯のようであったと云う神話がある。オキアミを撒く量でその日の釣果が決定した時代であった。付け餌用の小分けブロックが発売されるようになって、水分が多く鈎に付け難い。そこで酒、ミリン、塩、砂糖等で水分を抜いた。水分が残っていると、餌が柔らかくて竿を思いっきり降る事が出来ない。作って見て出来が一番良かったのが、蜂蜜であった。現在では1キロ298円程度の安い蜂蜜は砂糖などの甘味料で薄まっている。コストを下げる為には、安物でも十分である

 昭和60年代の釣の本で魚がアミノ酸に反応したと云う記事を見た。そこで昔味の素を練り餌に添加したことを思い出し、自家製のオキアミ作りには味の素は欠かせない物になっていった。退職後は釣もお金のかからぬ釣をするようになった。餌代もバカにならないが、しかし無ければ釣が出来ない代物である。今日の釣では一日の釣行に掛かる費用は、おおよそ5000円は下らない。半日でも3000円は掛かる。

 それを半日の釣行に1000円以下で抑え、週二回は釣行し、数も釣りたい。家庭の諸事情も考え夕方のマヅメの釣に焦点を合わせ、34時間で二、三歳物なら1530枚、尺物混じりの釣り場なら5~8枚を狙うことにしている。手っ取り早く釣る釣は団子釣に限る事から、フカセ釣は滅多にする事は無くなった。

 費用であるが、色々と試行錯誤の結果一回分で自家製餌50円、団子350円、コアミ1/2ブロックで、100円となりおおよその計550円位な物である。他の人に負けない団子作りで、これ位の価格でも出来る。もっと質を落とせばもっともっと安く出来るが、数も釣りたいのでそれは出来ない。

 釣も科学の時代、なんと味気ない事か。例え釣れなくとも、試行錯誤のアナログの釣をしたい物だ。