第65話    「釣り具の価値」   平成20年01月15日  

 最近、景気の上昇が多少停滞気味であるが、それでも上向きの傾向がこんなに長く続いているのは、戦後の日本経済の中では最高だそうである。しかし、緩やかでも景気の上昇で景気が良くなっているとは云え、庶民にとって全く実感は湧いて来ない。何故ならば景気が良いのは金融関係やIT産業、それにリストラに成功した一部の大企業などに限られているからである。だから一般の企業では相変わらず不景気が続いている。石油の高騰、穀物相場の値上げも相まって、大企業の値上げ傾向にある商品につられて、全般的に値上げ傾向が出てきた。それでも生活必需品以外の品物は結構街に溢れている。全体的にはデフレからは完全に脱却していない。価格破壊が社会現象化してから、もう何年なるだろうか。5060%オフなんか当たり前で、目玉商品となると70~80%引きの商品も珍しくもない。

 20~30%オフだったら分かるが、いくら中間マージンを抜いたからといっても、常識で考えられないような値引き販売が今でも行われている時がある。要は売れないから、安く売っているに過ぎないのだ。釣具のショップにも、一頃程ではないが、まだまだその様なことが多々ある。通常一流メーカー品では1015%オフで超目玉としている。しかしそれが二流、三流メーカーの商品が超目玉商品となると、また一流品でも問屋さんの倉庫に眠っていたかなり年数の経た物等はかなり安く販売されることもある。

 以前は趣味の世界の商品は、そんなことはあり得なかった。特に釣具ショップが全国的に展開するようになってから、安売り競争が始まった。同じような品物で、一流メーカー、二流メーカー、三流メーカーとの差こそあれ、釣り人は安く買えるようになって来た事は喜ばしい。しかし、人間という物は恐ろしい物で、日常5060%引きが、毎週のように日替わりで、買えるようになっている。釣具に限らずそんな安い品物が売られていると、それが当たり前の価値観となって来た。それに××%引きが当たり前の広告の中で、生活していると、それにつられてそれ以下だと高いと思えるようになってしまった。

 釣の世界では、一部のお金に余裕のある本物志向の釣師と安いものでも釣りが出来れば良いとする普及型志向の釣師とその中間の釣師の三タイプがあるように思える。趣味の為ならいくら高価でも少しでも良いものを買いたいという本物志向の釣師が居る中でファミリーフィッシングの人口が増やして来たのは手軽に買える安物商品の横行である。極端な話、間に合わせの釣が可能になったので、多くの安易な俄か釣師達を数多く誕生させた。そんな人たちに限って、海をゴミだめの様な感じで使用済みの釣具を安易に捨てて行く人達が多い。特にファミリーフィッシングが行われている釣り場には、決まって大量のゴミが捨てられている。ゴミを捨てて行く人達の親が親なら子も子で、釣り場にゴミ箱のような感覚で捨てて帰る。それに対して本物志向の釣師の大半は日頃からゴミを出さないようにしている人が圧倒的に多い。次の中間の人達は半々くらいの数のように見受けられる。いくら「磯場や港にゴミを捨てないで下さい」との看板があってもその直ぐ脇に捨てていく不埒な人達さえもいる。

 こうなると釣具の価値とマナーは、連動しているような気がする。安物志向の釣師たちやファミリーフィッシングの人達は捨ててもかまわない様な釣具や仕掛け、壊れても直ぐに買える安竿を購入し、釣が終わったらついでに食べ物の食い散らかし迄も簡単に捨てて行く傾向が強い。逆に本物志向の釣師たちは物を大事するから、自然をも大事にする傾向が強いような気がしてならない。