第79話    「庄内釣りの打ち返しに注意」   平成20年08月15日  

 庄内釣りは、本来完全フカセ釣りである。そしてバカがとてつもなく長い事が一つの特長として知られている。しかし、遠くの魚を釣りたいと云う結果、バカがとてつもなく長いと云う結果になった。その特長が災いして並みの釣り師では、殊に風のある日など正確にポイントに打ち込みする技の伝承が出来なかった。その技術的な問題から、その技を受け継いで昔のようにバカをとてつもなく長く取って釣る人は現在ではいない。更に餌も硬いもの(マエ、エビ、カニ等)から、安価で安い柔らかいオキアミに変化したこともあって、磯で釣る時の竿が長くなり、バカは最大で三尋位にまで縮まってしまった。最近ではもっと短くなり一尋、二尋があたりの前となっている。さらに庄内釣りの特徴として、頻繁に打ち返しが行われる。その打ち返しは、見学者の思っている以上に、後方に打ち返しの端が飛んで来るから注意が必要である。

 その点ブッコミ釣りは、たまにしか飛ばさないので釣り人、見学者共にお互い注意するものだが、それでも、夢中になる事もあって事故が起きている。関東のヘラブナ釣りなどでも打ち返しが頻繁に行われる。その釣りのバカは半尋長くとも一尋位なものである。庄内釣りではその昔等は三尋、四尋のバカは当り前で、熟練の釣師の中には竿の倍の長さの人もいたと云われている。通常クロダイを釣る為には、最低でも二間半、長ければ三間半から四間の竿を使った。三間の竿で5.4mある。とすれば、打ち返しすればさいしょうで約10mの範囲は注意しなければならない事になる。それがバカが、長いと最小でも145mになる。だから、一つの岩場には、先乗りの釣り人を邪魔しないようにと云う決まりの他に、一組の釣り人達と云う暗黙のきまりがあったのはその理由の一つであると考えられる。

 多くの釣り人にも釣りの上手下手がある。まして完全フカセ釣りをマスターした庄内釣りの釣り師たちは、風のあるなしにかかわらず長いバカを、自由自在にしかも頻繁に打ち返しを行う。当時でもそんな長いバカを打ち返す事の出来る物は中々いる物ではない。多くの釣師の中には完全な庄内釣りの技をマスター出来ぬ者も少なからずいたようだ。釣りの名人で奥羽列藩同盟の首謀者たる庄内藩を幕末から明治に生き残らせる等の活躍をした菅道実秀等は、家に居ても暇があれば完全フカセ釣りのイメージトレーニングを欠かさなかったと後の本に書いている。頻繁に餌を打ち返して、如何に自然な形でハキの流れに乗せて餌を落としてやるかが勝負の勝敗を左右する。頻繁に行われるその行為が、時には釣りに夢中で緊張を途切らせることもある。それで時には、事故に繋がる事も少なくなかった。子供の頃、服を引っかけられたとか、時には顔を釣られて医者に連れて行かれたと云う話を聞いた事がある。それは釣り人が釣りに夢中で、後方に注意しないからである。
 
 釣りの大衆化の結果、へっぽこ釣り師が多くなった結果である。ベテラン釣り師でも事故があるのに、見る側も釣る側も注意が足りないからである。どちらにしても、注意を喚起したいものだ。