第81話    「黒鯛の稚魚」   平成20年09月15日  
 今年の初夏に釣れた篠野子鯛(シノコダイ・シノコデ=黒鯛の子)・二歳は型が小さい。昨年に生まれ翌年の初夏頃から良く釣れて来る。この魚を鶴岡のお年寄りたちは、素麺の出汁にする為に酒田の岸壁に良く釣に来る。秋に釣る当歳魚(これもシノコダイと云う)も同様に、焼いた後乾かし越冬用の出汁にしたり、佃煮にしたりする。

 このお年寄りたちは、最近の釣師たちが春先のハラミダイを釣ってしまうから数が少なくなったと口説く。一方大きな黒鯛ばかり狙う釣師たちは、小さなシノコダイを釣ってしまうから大きいのが釣れないと云う。両者の言い分は、決して交わらない論争なのである。

 お年寄りたちの云い分は、こうである。「江戸の昔からハラミダイは、決して釣らずに子を生してから釣上げて来た。だからシノコダイを釣っても数は減る事は無かった。今の人たちは産卵疲れで引きの弱い、そして食ってもウマくないハラミダイを釣ってしまう。第一腹がボテボテしている魚を釣っても面白くもなんとも無い。体力の回復した秋の黒鯛を釣ってこそ価値があると云う物だ!」と云う。「自分たち年よりは磯で大物を釣ろうにも、今の釣り人は撒き餌を遠くに撒くから、全く岸には寄って来ない。だから年よりは小さなものを釣るしかないのに」とも云う。

 一方最近の釣師たちの云い分は「春先から釣れて来るものだから、仕様が無いではないか?全国的に春先の黒鯛釣りは認知されている釣り方なのだし・・・」。この両者の云い分は決して交わることの無い論争だ。「鶏が先か、卵が先か?」と全く同じである。

 今年6月に入り一昨年、一昨々年とシノコダイの孵化が大量に見られた関係もあり、三歳物の数が大量に釣れた。そしていつもより一月遅れて二歳物が釣れ始めた。海が異常である。何時も釣れる場所で中々釣れてくれない。そして釣れるポイントも違う。そんな今年は天候の異常で5月から7月にかけて全く雨がなく、暑かった。篠野子鯛の大量孵化が期待出来る。

 黒鯛に限らず魚の量は、有限である。釣り過ぎれば数が減るのは当然のことである。一昨年のシノコダイの孵化は凄かった。昨年はまずまずの孵化を見た。ところが45年前は、二年続け6〜7月にかけてオホーツク高気圧がせり出して来て庄内は寒かったので、いつもなら岸壁の縁に群れをなすシノコダイの姿が見えなかった。地球の異常気象の影響がこんなところにも徐々に出て来ているのであろうか?