第89話    「庄内竿のヘビ口 T」   平成21年01月15日  

 庄内では関東で云うヘビ口の事をサバ口と云う。ヘビ口とは延べ竿の先端に道糸を取り付ける為の具付である。リール竿全盛の今日、延べ竿は少なくなった。その少なくなった延べ竿でもヘビ口のついている物は、へら竿や渓流竿にしか付いていない。 今日残っている庄内竿でも、中通し竿が大半で延べ竿は余り多くはない。しかし、竹竿の原点は、延べ竿にある。ニガタケを切って来て一人前の延べ竿にするには、道糸を付ける為のヘビ口を付けなければ、竿として使う事が出来ない。

 
処がこのヘビ口を付ける工程が、自分にとってすこぶる苦手とする作業の一つである。その為残念ながらい何時も他人から付けて貰っている。竹採りから完成まで、すべて自分の手で一本の竿を作ると云う事が、出来ずにいるのが情けないと云う一語に尽きる。穂先にリリアンを付けてヘビ口の代用にしても良いのだが、それでは庄内竿の価値が下がると云うものだ。飽くまでも古来の形式に乗っ取ったヘビ口を付いていなければ意味がない様に思う。そんな訳で昨今ノーベル賞のオワンクラゲで一躍有名になった加茂水族館の館長さんにお願いしてヘビ口の付け方の写真を撮らさせて貰いながらもう一度勉強させて頂く事にした。

 
庄内竿の工程は全て見て覚える。盗み見して覚える。手取り足取り教えて貰えぬものだった。穂先にヘビ口を付ける工程は、子供の頃、良く釣り具屋で見てしっかりと覚えていた記憶があったのだが、実際やって見ると、自分の付け方では、先端部分の麻縄が太過ぎてどうも見栄えが悪い。釣り具屋の職人のようには、すっきりと上手には出来ない。穂先に対してヘビ口の幅が大き過ぎたり、何か不格好な物しか出来ないでいた。館長からは、「初めから完全な物を目指し過ぎてるのではないか」と云われている。とは云えなまじへっぽこ竿師と雖も、作る以上は一人前に「丈夫で見栄えの良い物を・・・!」と思うのは当り前の事である。

 
作り方として始め麻を適度に細く撚って細い麻縄を作る事から始まる。その昔祖父が藁工品の卸問屋を手広くやっていて、樺太、北海道、朝鮮あたりまでの漁業関係者を中心に商売をしていた。しかし戦時中の統制経済で中止を余儀なくされた。そんな関係で子供のころ、一番番頭さんだった方から、何度も藁や麻で細い縄を作る事を聞いたものだった。事もの事とて、完全に自分の物に出来なかったのが悔やまれる。出来なかったから、そんなもの買えば良いとして覚えなかった事が、今にして悔やまれる。亡くなった嫁に来た母は、舅からそんな事も出来ないと云われたくなくて、必死に覚えたと云う。