第97話    「ヤダケの竿」    平成21年05月31日  


 昨年暮れに館長と同行して、採って来たヤダケの竹10本ほどが手元にある。それを3月の末から、毎日のようにコツコツと矯めている。長年多くのヤダケを矯めている館長は、シュルシュルとこき矯めの技法で、いとも簡単に真っ直ぐに伸してしまうが、自分にとってこき矯めの技法は中々難しい。ヤダケの節間は蛇のようにクネクネと癖がついていて、中々に真っ直ぐになってくれないのである。だからこき矯めの技法を使い、節間を左右にこきあげて柔らかくしてから最後に自分が真直ぐだと思うところで竹を冷やしてやる。ニガダケのように、癖のついている部分だけを真っ直ぐにして強制すると云う訳にはいかない処に難しさがある。

 
庄内竿を使っていた人たちからは、何故かヤダケの竿の価値を一段低く見ていた。長年の乾燥に弱く、いとも簡単に縦割れしてしまう事がある。それに身が薄く大型の黒鯛には、対処出来ないと云う事がある。ただ、ヤダケと云う竹は、庄内の到る所で、植えられており、車をちょいと走らせればまずまずの竹が2030本位だったら簡単に採取して来る事が出来るのが良い。

 
ただ庄内竿から見ると、長竿には出来ないし、竿に粘りがない。長くとも三間止まりである。一番多いのは、二間から二間半泊まりで磯の小物を釣るには最適な竿である。このヤダケ竿は過去に名人が作った例は少ない。一度三十年ほど前だったか、明治の名竿師上林義勝が作ったと云われるヤダケ竿を振って見た事がある。それは二間一、二尺の小竿であるが、漆を塗ったように燻されて居て細身の胴調子であった。手に持った感触は、一件篠野子鯛竿(しのこだい竿)と思える作りで、人に云われなければヤダケの竿とは、思えぬものである。ヤダケの竿でも名人が作るとこんなものが出来るのかといたく感心したものだ。

 
その時根から穂先まで一本の竹で出来ており、良くこんな竹があったものかと隣の人と話したことを覚えている。普通ヤダケには、穂先がない。と云うよりも、ニガダケもそうであるが、冬に穂先が寒さで凍りつき枯れてしまう事が多い。また穂先があったとしても、いびつであったり、極端に細かったりその上節間が急激に詰まり短くなったりして、ニガタケのようにきれいに細くなっているものなどは、まず見つける事は出来ないと断言出来る代物なのだ。

 
ヤダケの良い点は、手軽に手に入る事である。自負分の好きな調子の竹を何本か集めてそれを矯めてその中から12本竿に出来ることである。作り方は庄内竿と同じであるが、ただ、これが庄内竿と云えば、色々と異論が出て来る事も確かである。