第98話    「ネマガリダケの竿」    平成21年05月31日  


 ネマガリダケで竿に挑戦した人は、少なからず居たと聞く。昭和初期の名竿師山内善作なんかもその一人だ。釣り具屋の店主なども、顧客の要請で度々船竿として作ってもいる。丈が短く、ずんぐりむっくりなその竹は一般的な竿としては向いている竹ではない。が、身が厚く柔軟性に富む竹質は、船竿としては良いようだ。

 
ネマガリダケと云うだけあって、根元に特徴がある竹である。数年前何とかしようと採って来た三本の竹がある。その時の竹は、余りにも曲がりが大きかった為、根は掘っていない。まだ多少青味が残っている竹を、少しでも矯正しておこうと根に近い部分を火にかけて、矯めて見た。中々真っ直ぐにはなってくれない。乾燥すると硬くしまった竹になるのだが、まだ青味の残っているネマガリダケは直ぐに元の曲がりになってしまう。

 
多少の焦げはしようがないと思いっきり火に当てて、矯めると今度は多少の曲がりが残るものの大分良くなって来た。23日置いて又火にかけて矯める。一番下の竹が割れてしまった。それが三年前の事である。久しぶりにその竹を取り出して、矯めて見る。貯めていた竹の中程から先の部分を矯めて見ると意外に簡単に真っ直ぐになった。竹は短いものの、意外に面白い竿になりそうだ。

 
残っている二本の竹も、矯めて見る。こちらはまだ一度も火に掛けていない竹であったから、根に近い部分の矯正はかなり難しい。以前矯めた事を思い出し、多少の焦げは目をつぶることにして、思いっきり火にかけて矯める。すると今度は節の部分にひび割れが生じた。まだまだ未熟者である。反省は後にして、中程から先の部分を矯める。こちらの方は、思ったほどの、難しさはなくなんとか思った様に矯められる。

 
この竹も穂先がない。ヤダケかニガダケの比較的堅そうなウラを付ければ何とか8尺から9尺位の良い竿が出来そうだ。最初の荒ノシで、加茂の館長に持参する。この手の比較的短い竿は、自分の使う竿には向いていない。少なくても二間一尺は必要なのだ。以前山内善作氏も作っていたようだと話だけはしていたので、大分興味を示して居たが、自分で採って来て迄作るところまでの気持ちはなかったようだ。しかしこの荒ノシのネマガリダケを見て、大分興味を示した。

 
全体的に手元が太く先に行くに従ってすんなりと急激に細くなって行く竹に、丈夫なウラを乗せれば根魚を釣るには楽しめる竿になるとの太鼓判を頂く。どうせ使わぬ竿であるから、三本すべて置いて来る。近々完成するであろう竿を見るのが楽しみである。